膝痛に悩む患者さんに福音を

 図1お年寄りの膝痛の原因として最も多い病気が、変形性膝関節症です。この疾患は膝関節に負担がかかることによって、軟骨の摩耗や骨の変形が起こり、痛みを生じるものです。国内の大規模疫学調査によると、潜在患者数は約2530万人と推定されています。また、要支援者の原因疾患は関節疾患が第1位であり、このうち大部分が変形性膝関節症によるものと考えられています。このように変形性膝関節症は発生頻度もさることながら、国民のQOL(Quality of Life:生活の質)を左右する極めて重要な疾患ととらえることができます。
 私たちは、高度の機能障害を来した膝関節を再建するために、人工膝関節置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)の研究開発を行っています。TKAは現在広く普及しており、デザインや材料、手術器械の改良により術後10?15年を越える長期経過例においても比較的安定した成績が報告されています。しかしながら、デザインの不備によるポリエチレン摺動面の摩耗や破損の問題は未だ解決されていません。近年では患者の術後スポーツ復帰など、活動性向上や術後機能に対する要求度が高まっており、さらに機能的かつ長期耐用性を有する次世代人工関節を開発することは喫緊の課題です。私たちは、日本人の解剖学的形状に適合し、深屈曲を許容しつつ、長期耐用性が期待できる次世代TKAの開発を目指しています。

 

研究の特色

 私たちは、より機能的で長期耐用性も持つTKAを開発するために、①コンピュータシミュレーションによる摩耗予測技術、②開発段階における力学的評価のための完全6自由度関節シミュレータ、③1方向X線透視画像によるイメージマッチングを適用した6自由度動態解析技術からなる3つの新しい開発支援技術を活用しています。

①コンピュータシミュレーションによる摩耗予測技術
 これまで、人工関節の部品であるポリエチレン摩耗を予測することは困難であるとされてきました。私たちは、変形量とすべり速度の積によって定義される過酷度というパラメータを導入することによって、正確に人工膝関節におけるポリエチレン摩耗を予測することを可能としました。

②完全6自由度関節シミュレータ
 完全6自由度関節シミュレータは、生体関節の複雑な6自由度運動を再現するために開発したもので、パラレルリンク機構による油圧アクチュエーション技術を応用し、6つの油圧アクチュエータにより制御された下部モーションベースと、2軸の腔圧シリンダーからなる上部装置にて構成されます。この装置によって、人工関節の摩耗試験や耐久性試験の精度が飛躍的に向上しました。

③イメージマッチング法による動態解析
 生体内での人工膝関節の複雑な動態を解析するために、イメージマッチング法を用いています。解析対象物の一方向の透視画像と、解析対象物の投影ライブラリーから位置や方向の異なる画像パターンを照合し、最も一致するパターンから、解析対象物の3次元的位置を同定する方法です。0.2mm、0.2°の精度で人工関節の空間認識を可能とし、臨床研究のみならず人工関節の実験開発レベルにおいても充分満足のいく精度が得られています。

 

研究の魅力

 痛みや変形、不安定性のため歩行できなかった患者さんが、術後に痛みなく歩行できるようになることは、私たちにとって最大の喜びです。外出がままならなかった患者さんから「家族と海外旅行にいってきました」といった報告を伺うと、こちらも幸せな気持ちになります。少しでも患者さんの福音となるようなTKAを作り上げること。そこに最大限の魅力を感じています。

研究の展望

 日本人の体格や正座の習慣など、生活様式を考慮した独自の形状設計に基づいて、後十字靭帯温存型TKAであるMera Quest Knee Systemを開発し、すでに2009年より300例を越える臨床実績を有しており、良好な中短期成績を得ています。今後は、前述した開発支援システムを駆使することによって、後十字靭帯置換型のデザイン完成を目指しています。より良いTKAを提供し、関節障害に悩む人々のQOL向上、生き甲斐のある老後のサポートを実現することによって、愛媛県における地域貢献を実現していきたいと考えています。

この研究を志望する方へ

 人間が大好きで将来医師になることを目指しているけれど、一方でコンピュータや物理など工学的な志向を持ち合わせている高校生諸君にとって、生体医工学分野の研究は最適です。なぜなら、趣味が人々の幸せに直接つながるんですから。とてもやりがいのある仕事ですし、生涯をかけて追求したいテーマが必ず見つかります。志の高い高校生諸君をお待ちしています。